’99国体ブロック予選会

 いよいよブロック大会である。そこそこに練習はしてきた。勝てない戦いではないはずだ。でも、土曜日の夕方に渕田は、実家で不幸があったからと帰ってしまった。司令塔をなくした残りの3人は、やはり気落ちしている。
 それでも今回は、宮崎が大会開催の担当県ということでたくさんのメンバーが来ている。応援も多い。

 さて、ここからは大会終了後に美子ちゃんが書いた作文を掲載する。余談だが、以前彼女は全国の作文コンクールで優勝し、副賞でオーストラリアに行ったことがあるという達文家でもある。このホームページにも掲載してあるので読んでいただきたい。
ブロック大会を漕いで
宮崎県カヌー協会 池辺美子
 今回の大会は「決して失敗は許されない」と、自分に言い聞かせながらトレーニングしてきた。
大会前日
 降水量で大きく表情を変える大野川は、想像していたよりも水かさは少なく、「今までの練習の成果をきっと発揮できる」と、川を見るなり胸の中でつぶやいた。練習のためにカヌーに乗っても緊張のせいか、いつものように漕ぐことができない。パドルでとらえる水の手応えが軽い。いつも悪いと思える部分を直して漕いでみるが、思うように動かない。徐々に不安が募る。スタート地点からゴールまで漕いでみる。いつもと同じ高さの波が妙に高く感じた。
大会当日
 雲が多く、時々雨も降るものの水量はさほど変わらず、川は、昨日と同じ表情をしていた。私の出場するワイルドウォーター競技は正午過ぎの発挺なので、午前中は今日まで一緒に練習してきた可児ゆう子先輩が出場するスラローム競技の応援をする。彼女もまた、この大会に備えて毎日トレーニングを積み重ねてきた。彼女の必死に漕ぐ姿を見ているうち、一緒に練習をしてきた日々が目に浮かんできて、思わず「がんばって、がんばって。」と叫んでいた。
 彼女が一本目を漕ぎ終わる頃に私は自分の競技の準備を始めた。それを終え、ウォーミングアップに行こうとしていた時、彼女は二本目を漕ぎ終えて上がってきた。そして、漕ぎ終えた彼女の目には涙があふれている。その涙を見た私は、とっさに悔し涙だと感じたのだが、その涙の意味は違っていた。一本目は、思い通りの漕ぎができなかったものの、私の見ていなかった二本目では、今までの中で最高の漕ぎができたらしい。「今日までの練習に悔いはない。漕いで良かった。」と、笑っているのだ。私は、その姿をすごく羨ましく感じると同時に、今日の私に、そんな結果が得られるかどうかと不安も感じた。しかし、カヌーの乗ってからは数十分後にくるスタートに備えて、ひたすらウォーミングアップをするだけで頭の中は真っ白だった。
 役員から「スタート五分前」の合図が来る。選手達はスタート付近に集まり、自分のスタートを待つ。気がつくと、男子の選手がスタートし始めている。宮崎県代表で同じ競技に出場している日高先輩がスタートした。先輩のスタートを手本に、スタート後の漕ぎ出す方向を確認する。私のスタートはそれから数分後だった。位置につくと、聞こえているはずの周りの音が消え、水面のみを見ている。その静寂を破るのが「十秒前」というスタート役員の合図だ。ここで、「いよいよだ」と、ようやくスタートする勇気が湧いてくるのである。
 「五秒前」からのカウントでスタート。無心で漕いだ。クラブの先輩と、小野監督のピッチに合わせた声援が聞こえる。それに合わせながら水中をパドルで引くたびに、昨日と違いパドルがしっかりと水をとらえる重みを感じる。最初の白波を立てる瀬が見え始めたあたりから、自分の欠点が頭をよぎり、その欠点を口ずさみながら瀬の中に入って行く。白く泡立つ波は私のカヌーを左右から押しつける。波に負けてバランスを崩さないよう、私は必死に漕ぎ続ける。最初の瀬を抜けると、そのままのペースでゴールまで行けると感じ、ひたすら漕ぐ。しかし、二つ目の瀬にさしかかった時、横転してしまった。起き上がってコースに戻ることができない。脱挺して流される。その間も、岸に向かって必死に泳いだ。やがて岸に近づくと、急に涙が出てきた。浅瀬まで来て足がついた時、失敗したんだ、という実感が湧いてきた。今までの練習してきた結果がこのようなかたちで終わってしまったんだと思うと、くやしくて、くやしくて、どうしようもなかった。
 結局、今回の大会は失敗に終わってしまった。しかし、大会に向けての練習の大切さを十分に感じることもできた。練習あっての成功なのである。今回感じることができた様々な思いを胸に、これから少しでも記録を更新できるように、練習を積み重ねていきたいと思う。
 いかがであろうか。高校生ならこれぐらい書けるとオーストラリアまで行けるという見本である。

 さて、今回の大会ではいろいろなことがあった。口惜しかったり、哀しかったり、残念だったり、大いに腹が立つこともあった。
 でもマァ、たまにはそんなこともあるさ。また来ればいいよな、この娘たちの笑顔のために。