球磨川を下る

 カヌーに始めて乗ってから、そう、かれこれ10年にもなってしまったか。あっちこっちの川も漕いだ。もちろん、球磨川には何度となく通い、数ある瀬もほとんどは漕いだ。ところが、漕いでない瀬が一つだけ残っている。球磨川、二股の瀬である。

 国体も終わり、若い連中もノンビリとしている。来年に向けての練習もあるとはいっても、所詮カヌーは遊びである。遊びを遊びらしく楽しもうということでキャンプかたがた球磨川下りと洒落てみた。

 満天の星の下、今度こそは下ってやるぞ。というオジさんらしからぬ野望を秘めた夜が更けていく。更けていくのはいいのであるが、ちょっと誤算があった。

 今回は、私を除けば全員が20代である。しかも、酒の飲める奴はいない予定。ところが、満天の星たちは酒の飲めないはずの若人を大酒のみに変えてしまう。いつの間にかクーラーの中のビールと五合の焼酎は、飲み人知れず、となって消えてしまった。
 次回からはクーラーいっぱいのビールと2升の焼酎を準備しよう。満天の星たちが輝いてもいいように。
 わたり発船場の朝

 キャンプ地はわたり発船場の駐車場を無断借用した。足場が良いのとトイレ、水場がある。ただし、川下りの船頭さん達が朝早くから準備に来るので早々に追い出される。
 私たちも朝は早い。昨夜の焼酎五合は、誰に偏ることなく四散したのであるから二日酔いなどという不届き者もいない。私は4時に起き、全員を5時に起こして渋茶なぞをすする。
 川霧が出て今日の晴天を保証するが、何時になったら晴れてくるかはわからない。知っているのは中州で寝ていたアヒルだけかも。
 日帰り組と合流したり、車の移動をしたりで出発は10時である。これでは朝から出かけてきた方が早い。何のために酒もろくすっぽ飲まずにキャンプまでしたかがわからない。分からないけれども気にならない。
 天気もいいし、川はきれい。若いモンは元気がいいし、屈託もない。オジさんもご機嫌の川下りである。
 誰や、沈してるの。
八貫の瀬

 岩で両岸が狭くなり水が集まって波が高い。さらに、少し左にカーブしてるのが怖い。こんなのは大したことはない。怖くもない。などと言う仁もいるが、そんなのに限って何度となくここを下っている筈である。
 大なり小なり瀬に入る前には胸の高鳴りがある。川はいつも同じではない。水量、天候、季節。その変化があるから人の胸には平常心ではない高鳴りを憶える。だから、また来るんだよねぇ。
 私にとってこの瀬は2度目である。胸の高まりも感動も初回と変わらない。マァ、単に上達してないだけと言われても返す言葉がない。
 が、つまらない上手よりも得した気分になることだけは請け合える。 
 何本もの支流が球磨川には流れ込んでいる。一番大きいのが、五木から流れてくる川辺川。その次が満江川。この満江川で以前釣りをしたことがある。人吉から八代までの高速道路の工事にかかる前であるからだいぶ前のことではある。何匹かのヤマメを手にした。だから、ここいらの支流にはいるはずである。丸々としたやつが。
 球磨川では、鮎釣りはたくさんいるがヤマメは聞いたことがない。ここらの釣師は鮎釣りの解禁だけに気を取られているに違いない。手つかずの川と魚がいるはずである。来年はヤマメも釣ろうか。
二股の瀬

 年甲斐もなく、行くでぇ、と気合いを入れて最後の懸案であった瀬に突っ込んだ。どうにか下りきったものの、感想は一言。

 二股の瀬は水の壁だった。