比 叡 山

 久しぶりに比叡の山に出かけてきた。
 取り立てて意味はない。ただ、山のガイドブックを眺めていて、この山に一般ルートがあることを知った。岩を攀じることには無理があるが一般ルートなら登れるだろうし、あの岩のリッジにまた立ってみたいと思ったのかもしれない。
 私には、この山々を含めて五ヶ瀬の川などには尋常ならざる想いがあり、カヌーに乗るハメになったきっかけもこの界隈にある。
 そんなワケでもなかろうけれども、2月にしては暖かい絶好の日よりの中、カメラ片手に出かけてきました。


 右が比叡、左が丹助。中を流れるのが綱之瀬川。鹿川(ししがわ)渓谷とも言いますな。今では、この比叡山もロッククライミングのメッカとなりたくさんのクライマーで賑わっています。と、ガイドブックにも書いてある。実際に何人かの若いクライマーが道具を身につけ、壁を見上げてルートの確認をしていた。緊張と期待が入り混じった顔。なかなかいいもんであります。
 そんなことを考えているオジさんも30年前には同じ顔をして壁を見上げていたのかもしれない。緊張と期待と、そしてもうひとつ、悲壮感というものもあったように思いますね。情報の乏しい田舎の若きクライマーにとってはそんな時代だったんですよ。四半世紀以上も前の話ですから。

 そんな壁に取り付く連中と別れて尾根の北側にある一般ルートを登ってみました。これもけっこう急でしたね。岩の角をつかみ木の根を引っ張って登るといきなり視界が開けて日が当たる。一峰の尾根の上。弾みがつくと反対側の南壁に落っこちそうになるほどの狭い岩のリッジ。ちょっとした感動。オジさんが感傷的になる一瞬。
 そうそうある夏の日、この壁を登った時のこと、いろいろとトラブルが重なってようやく登りきったのが夕方になっちゃって、どっかそこらのテラスでビバークとなったことがあります。落っこちないようにザイルをぐるぐる巻きにして、どのテラスだったんだろう。水が無くなって、1本のタバコを4人で回し飲みしたっけ。ハイライトだったと思う。もう時効だからいいけど、未成年はタバコ吸っちゃいけませんね。
 翌朝、下るときに飲んだ岩場の湧き水の冷たさと、ハラペコを我慢して作った冷やしそうめんの味が忘れられない。
 若いときは誰にでもあるさ。セミの声が聞こえそうな気がした。





 川沿いに上っていくとちょっとした盆地が広がります。変わったことと言えば狭い道路が舗装されたことぐらい。30年も前からほとんど変わることなく、これから30年も変わらないであろうと思われる山里があります。
 オジさんには夢があるのです。この静かな山里に終の棲家を持つこと。春になれば山女を釣り山菜を摘む。大根でも作ってビールを楽しみ、秋には紅葉を愛でて冬には雪を待ち陽だまりで昼寝をむさぼる。
 どなたかそんな夢に付き合ってくれる御仁はおられませんか。おられましたら当方までご一報いただきたい。ただし、若く美しい女性に限ります。