11月は曇り日ばかりが続いてウンザリしていたところに、ようやく西の方から冬将軍の前座並の高気圧が張り出してきた。
 張り切って3時に起きて、24時間営業のファミレスで朝飯を食い、高速をぶっ飛ばしてえびの高原へ出かけた。韓国岳に登り、黎明に浮かぶ高千穂の峰を撮るためである。上手くいけば、獅子座流星群も撮れるかもしれない。

 登り始めたのが5時前。満天の星と輝くばかりの月。小さな懐中電灯でも十分な明るさ。休まず登って6時前には頂上着。羽毛服を着込んで三脚にカメラをセットする。ファインダーをのぞいてもほとんど何も見えないけど、高千穂の峰にピントを合わせる。絞りをf5.6にしてオートのままでシャッターを切る。
 さてここで、カメラはシャッタースピードを何分と計算したんだろう。おそらく、30分か1時間程度と計算したはずである。なにしろシャッターを切ったときには月明かりしか無かったんだから。ところが、10分ほどそのままにしてたら東の空が赤く染まってきた。カメラのミラーは上がりっぱなしだから、そのことをカメラは知らない。こりゃ、ほっとくとオーバー露出になるぞ。と、無理やりマニュアルに切り替えてシャッターを落とす。寒さにかじかむ手でフィルムを巻き上げ、再度シャッターを押す。が、切れない。いろいろと手を尽くしてみるが切れない。どうしてもダメ。
 あきらめて帰ることにした。写真が撮れなきゃどうしようもない。下山していると、私ほどではないにしろ早起きの人たちが登ってくる。ずいぶん早いですね。と声をかけてくる人もいる。大きなお世話だと思うが、胡散臭いのは私の方であろう。なにしろまだ日の出前なんだし。
 そんな苦労の一枚が下の写真である。月明かりでも写真は写る。


 私の愛機はコンタックスRTS。私の名前が彫ってある特別機なんだけど、いかんせん古い。25年はとうに過ぎた。私はこのカメラをどこに行くときでも持っていった。数々の迷場面を切り取ってきた愛着の固まりみたいなカメラなんです。それが壊れた。数年前、シャッター幕の取り替えをしたときにメーカーは、もう部品がありませんので今度故障したら直りませんよ。って言った。飾っておくしかないか。
 ふと思いついて電池を替えてみたら、動いた。電池切れだったんですねぇ。

 また近いうちに、今度は前座の高気圧じゃなくて、ほんとの冬将軍が引き連れた高気圧がやって来たときに登ろう。と、懲りないオジさんは考えています。